ブラック・ラグーン (5) (サンデーGXコミックス)

ブラック・ラグーン (5) (サンデーGXコミックス)

5巻発売。もうこの漫画の面白さは現在連載されている漫画の中では1,2を争うような位置まで来てるんじゃなかろうか。基本的に絵が見やすくて、しかも5つ6つの組織の抗争を描ききれるというだけでもしっかりしたものだけど、なによりこの巻でロックとレヴィが自分達を「歩く死人」というように自覚したことで、主人公を完璧に持たざる者、呪われた者にしてしまったところがあまりにも最高。

持たざる者、呪われた者がどうやって生きていくかというものは、死刑制度や差別問題、ひいては魂の救済といった行くとこまで行ってしまうとてつもないテーマで、例えば人を殺してしまった人間は幸せになれるのか、なれるのであればどのような生き方を幸せだということなのかというようなもので、真っ先に思い出すのはトルーマン・カポーティの「冷血」だったりする。「冷血」も同じテーマを扱っていて、主人公の2人組が田舎町の白人一家を惨殺して処刑されるという話なのだけど、こちらの方は死刑になって終わりで、しかし作者の描写力がとてつもないので、自分は死刑制度は容認派だったのだが、生まれて初めて死刑制度は実は無意味ではないのだろうか?主人公達にはもっと別の道はなかったのだろうか?と考えて、それに付随してルポルタージュの限界というか、この作品が死刑で終ることだけは最もふさわしくないし、もっと他の形が無かったのだろうかと、納得もできなかったことを思い出した。(町田康の「告白」も似たような作品で、こっちも最後は死んでしまう。)そもそも、この冷血という作品はドストエフスキーの「罪と罰」の系譜上にあるらしくて、自分は「罪と罰」は未読なので詳しいことは何も言えないけど、「罪と罰」も主人公が老婆殺しの咎を背負い、その魂の救済を描いたものらしいけど(伝聞)、「冷血」の方では時代が下って何一つ救われないとは色々考えてしまう。

この5巻で作者は、雪緒が杣径を読んでたり、唐突にロックがサルトルを話題に出したりしていて、過去の錚々たる文豪が本気で挑みつづけたくらいハードなテーマに挑戦する意志を見せたと思うので、このままテーマを背負って突っ走れるのかどうか、注目したい。とりあえず、主要メンバー皆殺しとか、1人だけ生き残って語り部になるとかは勘弁してほしい。それではこのとてつもなく重いテーマに立ち向かった意味が無くなってしまうから。