豪放ライラック(1) (GUM COMICS)

豪放ライラック(1) (GUM COMICS)

三省堂書店の漫画コーナーで見かけたとき、凄いあいまいでもしかしたら自分で創作した記憶かもしれないが、あずまきよひこの「あずまんが大王」の源流だとかなんとかというフレーズを思い出したので軽い気持ちで買ってみた。この漫画はストーリーなんかあってないようなもので、その代わり完璧なまでに時間と空間が立ち上がっているちょっと見たことの無いような漫画だった。

時間と空間が立ち上がっていると言うのはそもそも言葉にしづらいのでこういう言葉を使ったけど、多分誰も分からないだろうから上手く説明できないのを覚悟で説明すると、いわゆるキャラが立っているという概念のもう一個上位にくるようなもので、まずキャラがちゃんと立っているのが前提で、そのキャラ同士が関わりあうことで「場」のようなものが結ばれるというか、1コマの中にちゃんとした時間の流れや空間の広がりが存在するというようなもので、大体1コマを見るのは長くても数秒とかそんなものだと思うけど、実際に読んでいる時間は数秒でも、読んでいる間に感じる時間はまったく数秒なんてものではなくて、同じように1コマに描かれている以上の空間の広がりを読んでいる時に感じるといったようなものだ。

この感覚と対極をなしているのが主に少年誌の主流の漫画で、少年誌で主流イコール現在の漫画の主流になっているに思う(それに伴って漫画の読み方も。当然ながら読み方はというものは決して1つではない)。具体的に言うとストーリーで下地を作っていって、そのストーリーで貯めていった「熱」というか「勢い」といったようなものを1コマ1コマのキレで開放するというものだ。すぐ思いつく漫画だとワンピースとかアイシールド21とか。

そういうものではなくて、ただただキャラ同士が関わりあって結ばれる「場」を描くことが結果として本質的なリアリティ*1を生んでいて、気の合う友達とダラダラ雑談しているように、とても面白い。

とまあ、色々書いたけど、一言で言えば「なにが面白いわけでも無いけど、ついついパラパラめくってしまう漫画」で、超オススメ。多分実力の割に売れてなさすぎな感なので気になった人は是非買ってください。

*1:本質的なリアリティとは、キャラの設定が現実と整合性が取れてるとか、言動が一貫してるとか、絵がリアルだとか、そういう表面的なリアリティではなくて、1人の人をその人たらしめているその人「らしさ」のようなもので、この豪放ライラックは登場人物のみならず、時間、空間が「らしさ」でいっぱいなので読んでいてすごく面白い。ちなみにこういうアプローチは普通は小説家がやるもので、漫画はやっぱりキレ重視なのですごく珍しい。